おすすめ文献

要旨1

安立清史・大野俊・平野裕子・小川玲子・クレアシタ(2010)「来日インドネシア人、フィリピン人介護福祉士候補者の実像」『九州大学アジア総合政策センター紀要』第5号 163-174 九州大学アジア総合政策センター

 

 この研究は、インドネシアとフィリピンから来日した介護福祉士候補者の属性や特徴、来日動機や不安などを比較して報告することを目的としている。方法はほぼ同一項目のアンケート調査票を用いた自記式による集合調査で、使用言語はそれぞれインドネシア語・英語であった。結果として、インドネシア介護福祉士候補者 (2) とフィリピン介護福祉士候補者 (1) とでは、属性に大きな違いが認められた。とくに年齢(インドネシア介護福祉士候補者の年齢層は若く、フィリピン介護福祉士候補者は年齢分布が幅広く分散している)、婚姻状況(フィリピン介護福祉士候補者のほうが婚姻比率が高い)、宗教(インドネシア介護福祉士候補者は9割以上がイスラム教徒、フィリピン介護福祉士候補者はほぼ9割がキリスト教徒)などで顕著であった。また、来日動機や来日にあたっての心配や不安の項目にも両者で違いが認められた。


要旨2

川口貞親(2009)「日本、フィリピン、インドネシアの看護教育カリキュラムの比較」『九州大学アジア総合政策センター紀要』第3号 91-104 九州大学アジア総合政策センター

 

 この研究は、経済連携協定に基づく日本の外国人看護師受け入れに関する研究の一環として看護教育のレベルに注目し、フィリピンとインドネシアの看護教育カリキュラムを紹介し、わが国の状況と比較することを目的としている。比較に用いたカリキュラムは、フィリピンの現行の看護カリキュラムである高等教育委員会覚書指令30 2001年集「看護教育の最新版方針と基準」と、インドネシアの看護専門学校[D3]のカリキュラムである。その結果、日本では現行指定規則で決められている93単位に各学校が科目を加え、実際には130単位前後で運用しているが、フィリピンのカリキュラムでは183単位が必要で、日本よりも50単位以上多いことがわかった。一方インドネシアでは、カリキュラムに定められている必修単位は96単位で、それに各機関が設定できる単位を加えると全単位の合計が110120となり、日本の130単位という現行カリキュラムに比較的近い数字であることがわかった。


要旨3

クレアシタ(2010)「インドネシア人の看護師・介護福祉士候補者の来日動機に関する予備的調査:西日本の病院・介護施設での聞き取りから」『九州大学アジア総合政策センター紀要』第5号 193-198 九州大学アジア総合政策センター

 

 本研究はインドネシア人看護師・介護福祉士候補者を対象として、質的調査により来日動機を明らかにすることを目的としている。またインドネシア人候補者の来日動機と将来的な定住化傾向との関連を探り、海外で働く動機からみた定住化要因に関する考察を試みる。方法は20092月から200912月の間に、西日本にある受け入れ病院6ヵ所と施設1ヵ所で、インドネシア人看護師候補者15名、介護福祉士候補者2名に対してインドネシア語でインタビュー調査を行った。結果として、「家族を経済的に支援すること」と「キャリア形成」が来日の主な動機ではあるが、このうちの一つだけを動機とする候補者は少なく、その両方を合わせ持って来日した候補者が多いことが明らかになった。定住化傾向については来日動機という観点からみると、「家族支援」のタイプは定住化が起こりやすく、「キャリア形成」タイプは定住化が多くの選択肢の中の一つとなるのではないかと思われる。


要旨4

トムソン木下千尋(1998)「学習契約書を使った自律学習の試みー実例からの考察」『第二言語としての日本語の習得研究』2号 27-40 第二言語習得研究会

 

 学習者の増加と多様化への対応策として、学習者の自律という概念に基づき、学習契約書を使ったプロジェクトを紹介、検討する。学習契約書とは、学習者が自律的に学習を行うに当たって学習の支援者と交わす契約書であり、学習の目標、計画、評価などの項目を含んでいる。学習者は契約書に書かれた内容の学習を計画に沿って行い、何らかの結果を出し、自己評価する。オーストラリアの大学の中級日本語コースで、教室外活動プロジェクト(成績の20%)の選択肢の一つとして、学習契約書を使ったプロジェクトを行った。プロジェクトは、(1)プロジェクトの説明、(2)モデルの提示、(3)契約書の作成、(4)日本人協力者の支援の要請、(5)学習の実施、(6)学習成果の提出と評価という手順で行われた。その結果学習の効率化、学生のニーズの反映、学生の持つリソースの利用、学生の達成感、本来の意味での学習の実現、自律学習力の育成など学習契約書を使う利点が見られた。


要旨5

Hirano, O. Y., and Wulansari, S. A.2009)“The Japan-Indonesia Economic Partnership Agreement Through the Eyes of Indonesian Applicants : A Survey and a Focus Group Discussion with Indonesian Nurses,Bulletin of Kyushu University Asia Center Vol.3 77-90  Kyushu University Asia Center

 

 この研究は、日本・インドネシア経済連携協定についてのインドネシア人看護師の考えを述べ、インドネシア社会・日本社会双方の社会経済的および文化的背景を考慮して、問題点を分類することを目的としている。方法は、短期集中日本語研修中のインドネシア人看護師応募者に対して、アンケート調査とフォーカスグループ・ディスカッションを行い、得られた量的および質的データを分析した。結果として、インドネシア人応募者に与えられている情報、特に日本の病院の情報と介護福祉士の職務についての情報は限定されていることが明らかになった。また他方では、インドネシア人応募者の日本や日本文化に対するイメージも限定されていることがわかった。ハイテク社会としての日本はインドネシア人応募者を日本に引きつけるが、それはテレビ番組やメディアを通してすり込まれた、いくぶん限られた日本のイメージであることが推測される。

 

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